autobiography # 014 誰にもできなかった話2

  テレビに若者が登場し、ホンネで語れる友人がいないことを嘆いていた。ツレは大勢いるけれど話をあわせようとしてしまい、本当に聞いてほしいことを語れないのだそうだ。いや別に真の友人だからとかそういう問題じゃなく、いいだす機会がなくてなんだか言い出せない、だけど誰かに聞いてほしい話というのはあるものである。

  そんなわけで、ここに誰にも話せなかった、語れなかったはなしを記す。あなたは読むのもよかろうし、読まないのも自由だ、でも読んでくれるとうれしい。とてもうれしい。

  うっかり文科系にすすんでしまったせいで、化学の有機というのを最近まで知らずにいたのだが機会あって受験参考書など読んでみると一粒の分子のカタマリをモノマー( 単量体)といい、これが多数結び付き合ったものはポリマー(重合体)というのだそうだ。ポリマーは接頭辞「ポリ」をつけて表現される。たとえばエチレンの重合したものはポリエチレン、塩化ビニルならばポリ塩化ビニル、といった具合である。重合のしかたは鎖のように順々に連なることもあれば、布のように上下左右と連なることもあるそうだ。

  さて問題はポリアンナである。ポジティブシンキングの権化、秘技「よかったさがし」の遣い手で、報告された「ポリアンナ症候群」第一号の彼女である。

  彼女は 単量体としての「アンナ」が多数鎖状に重合したものではなかっただろうか。おなじフジテレビのアニメに『破裏拳ポリマー』というのがあったが、こいつもあやしい。やつのポリメットの影には多数の赤、青、白、のメットが付加重合、ないし野合していたのであるまいか、さればこそやつは文字通り千人力だったのでは。

  だとするとポリアンナが無闇ヤタラに幸福な理由も判明する。彼女はいつもひとりではなかったのだ。孤立は彼女には無縁である。不幸な境遇を励ましあう多数の「アンナ」たちの重合体であったのだ。彼女達の魂はとっくの昔に補完されてしまっていたのである。

  その他ではポリ巣というのも恐しい。たしかに都市国家とは家の重合によって形成されているような気もするし、派出所、警察署も全国津々浦々に存在することによってその機能を果たしている。ポリタンクやポリ袋は3ヶ1000円とか10枚100円とかの束を解いてしまってはもはやタダのタンクや袋ということになる。

  ところで近頃ではすっかり携帯電話とかPHSとかが普及しレンタルビデオ屋の会員登録にも記入を求められる始末である。ただなら貰ってやってもいいけれど、面倒な書類にゴチャゴチャ書いて、月々使用料だの基本料金だのとられてまで欲しいものでもないので持っていない。

  というのは正当化のための口実で、実はあれが恐い。どうも高校生のころアマチュア無線などやった名残であんなものを持つと「ハローCQ,CQこちらはJA3YCT、ジュリエット・アルファ・スリー・ヤンキー・チャーリー・タンゴ、ジャパン・アメリカ・スリー・ヨーク・コロンビア・トーキョー、…」などとやってしまいそうである。ジャパンアメリカさんのヤンキーのチャーリーがタンゴを踊ってしまうのだから尋常でない。アマチュア無線恐るべし。いやそれならまだいい、「隊長、ゴモラは大和川河口より上陸、あびこ観音、住吉大社を撃破、法善寺横丁水掛け不動さんに向けて進撃中です。隊長、このままでは大阪には神も仏も無くなってしまいます。」なんぞとやってしまいそうである。これは小学生のころ近所の公園で学研のトランシーバーに向かって実際に喋ってしまったのである。

  無線はいかん、無線は。あの電波というやつが人間を狂わせてしまうにちがいない。 とはいえ、怪獣はどういうわけか「××ラ」「××ゴン」という命名規則を持っていた。恐竜の命名規則の「××ザウルス」「××ドン」みたいなものである。そんなわけで身近な人間に接尾辞ゴンをつけて怪獣化することになる。「教育ママゴン」とかそういうあれである。さてこうして安易に量産される怪獣が多数重合するとき3D怪獣「ポリゴン」が猛威をふるうこととなる。

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   2002/03/10