二つ返事とは「合点、承知!」だと固く信じ込んでいた。さしたる根拠はな いが。親分さんや御隠居さんの頼みごとを聞くとハチもクマもうっかり八兵衛もこういって快諾したハズだ。しかし、辞書をあたるにそうではないらしい。
新明解国語辞典第二版 ふたつ【二つ】
−へんじ【―返事】「はい、はい」と、ためらわず、すぐに承知すること。
岩波国語辞典 ふたつ【二つ】
−へんじ【―返事】はい、はいと、すぐに承知すること。←→生返事
広辞苑第五版 ふたつ‐へんじ【二つ返事】
ためらうことなく、すぐ承諾すること。「―で引き受ける」
新辞林・ワープロ漢字辞典 ふたつへんじ【二つ返事】
「はい,はい」と重ねた返事。快く承知すること。
日本語辞典(現代国語、外来語) ◆ふたつへんじ【二つ返事・二つ返辞】
〈名〉「はい、はい」と言って、すぐに引き受けること。「―でオーケーする」
[類](->link)快諾(かいだく)
辞書が全て正しいという訳でもなかろうし、こうなると用例を漁らねばならぬ
がそこは怠惰な私だ。あっさり敗北を認めよう。すなわち完全な理解での以下の考察である。
連呼である。この連呼は如何ように解するのが妥当であろうか。「ハイは一回。」という。ただ一度だけの「ハイ」は、単なる了承、それだけではない。相手に 対する誠意である。相手の依頼を受け入れ、これに応える敬意である。いまこのときただ一度だけ同じ時間を共有できた喜び。そこには一期一会の凄味があると いっても過言ではあるまい。しかしそんな「ハイ」ですら連呼されるとき様相は一変する。それは軽視、侮蔑、疎外、あなたのことなどどうだって構いはしない という宣言へと変貌してしまう。してみるとこの連呼はもうお茶なんかどうだっていいそういう主張ではないのか。
「ハイ」が連呼されて「ハイハイ」になったとて、そこに軽視、侮蔑、怠惰 などを読みとってはなるまじ。ここに二つ返事の快諾のキレ味をこそ読みとくべけれ。(係り結びによる強調。)
ここにおいてはじめて、先生の頼みごとを二つ返事で引き受けることのでき なかった生徒さんの悲哀が理解されるのである。彼とてどんなにか二つ返事で引き受けたかったろう。しかし、彼の脳裏には「ハイは一回」の呪文が駆 け巡ったのであろう。ここで二つ返事で引き受けてしまっては師の教えに反する。泣く泣く一つ返事で引き受けるしかなかったのであろう。