1999/02/21(日)

  入院する事になった。中学生くらいの頃から、膝に鼠君がお住いでいらっしゃったのだが、先秋より、少々暴れるのだ。階段の昇降時、車のクラッチを踏む時などがどうもいけない。で、この2月20日より、御入院、手術と相なったわけである。
  入院してみると、実に退屈である。手術前などは、体は以前と同じであるから、無闇にピンピンしている。おまけに階段を昇降する事もクラッチを踏む事もない。膝も全然痛まないので、しまった入院などするのでなかったと思われる。とはいえ、このまま退院でもしようものなら、また痛い思いをするに極っている。

2/22(月)

  今日は、手術である。主治医によると、全身麻酔の方が楽だろうという事でそうなったが、これが大変である。何分手術中にもろもろの体の制御が麻痺しているから、前夜より絶食、絶飲で、おまけに当日は浣腸までせねば、ならぬという。更に点滴をして、腰に麻酔を打つべく、X線写真をとり、手術を行うのだそうだ。明日からは、晴れて病人である。手術の際はパンツはダメでT字帯というのをつける。要するにふんどしである。

2/23(火)

  昨日は手術であった。というわけで、足の動かぬようギプスをはめている。便利になったもので、このギプス布製鉄骨いりである。マジックテープで着脱自在である。傷口はハッキリ云って痛い。ここで気づいた事は、片足にギプスをはめてみると、パンツがはき難い。偉大なものはふんどしである。あれはこうした場合、実に便利である。
  病室は3人部屋で今の処私と50代半ば位の叔父様である。彼は、よくある交通事故を貰って、ムチウチの様である。ただこの男悪人ではないが、怪我とも合間って、いささか、甚だしいイビキである。元気な時はどうということはないが、昨夜は麻酔の覚めるとともに膝の痛みが強くなり、苦しんでいる処に盛大に頂戴したので哀しきものがあった。「痛いよう」と泣いていたら、看護婦さんが座薬をくれた。結構効いた。
  午後は部屋替えである。以前居た3人部屋は手術後の全身麻酔人間を放り込むのに好都合だったのであろう。こんどは6人部屋で私で満室である。20前後かと思われる若いのが2人と50代後半から60代と思しき叔父様が2人40代くらいのおじさんがひとり、隣の若蔵はハンディーゲームばかりしている。こういうところではちょうどよいひまつぶしであろう。おもしろいことに初老2人と若蔵2人とが同時にテレビを見ている。若蔵は2人ともタモリ主演のトーク番組、初老は時代劇の再放送である。そのあと叔父さんも入って来てやはり時代劇を見ている。おそるべし水戸黄門。
  夕刻、婦長さんがいらっしゃって膝から取り出したと云う鼠さんをお見せくださった。7ミリ角はあろうかという大鼠が3匹もいらっしゃった。痛いわけである。やや透明がかった乳白色である。

2/24(水)

  隣の兄ちゃんは大したゲーマーさんらしく昨夜は遅くまでお楽しみでいらっしゃったが、今朝からも賑やかである。それでも夜は憚られるのかスピーカを止めているが、朝ともなると意置き無くお楽しみである。
10:00の回診があり、立ち聞きしていると我が目は節穴だった事が判明。斜め向かいの叔父様は71だった。おとといより朝夕に点滴を頂戴しているが、点滴薬には生食と書いてある。一体何のための点滴かよくわからないので、聞いてみると抗生物質だと云う。傷口の化膿がこわいのだろうか?やっぱりよくわからない。後で薬品名を聞いてみるとモダシンというそうだ。
  筋向かいのHTさんの奥さんがとっても良い人でプリンとコーヒーゼリーをいただいた。何かお返しをとは思うけれど、見るだに好き嫌いがありそうだし、そもそもお菓子なんか食べなさそうだし、かといって病院だから3食ちゃんと食べてる訳だし、ああ困った。結局口先だけで感謝しておいて、後でたまたま廊下なんかでよろめいたりしたら、「しっかり。」なんてってお助けする事にしておこう。

2/25(木)
 
  筋向かいのHSさんもとっても良い人で、苺とバナナをいただきました。今日は頭も洗って体も拭いて、シーツも換えてすっきりさわやかです。とはいえ、水銀体温計の初期化がちっともうまくならない。なおこの症状は左脛骨オスグッド病後遺症というそうです。今日は10:00の回診が15:00になりました。午前はシーツ交換で大変だからでしょう。おまけにHTさんに蜜柑も貰いました。おもわず、ですます調になってしまいます。

2/26(金)

  隣のKZさんもとっても良い人で、ドーナッツを2ツ貰いました。お向かいのMK君は退院です。夕方には、早くもお次ぎの方がお入りになるそうで、予約してたそうです。そういえば、先週院長がしきりに退院を勧めていたような。
  隣のWN君は、ほんとは、プレイステーションを持って来たい処なのだけれど、テレビ代が高いので我慢しているとの事。

2/27(土)

  向かいに新しく入って来たKIさんの奥さんもとっても良い人で、みかんと苺大福を頂きました。ここのところ本もろくに読まず、物書いています。2/25からは点滴もなくなり、検温するだけです。KIさんとHTさんは、釣天狗で釣りの話題で盛り上がっています。
  今日は、お見舞ラッシュです。HTさんにはコーヒーゼリーを、WN君の御友人にも、コーヒーゼリーを頂きました。

2/28(日)

  隣のWN君の妹君もとてもいいひとで、鴬餅と桜餅をいただきました。HSさんにはドラ焼きを、KZさんには御寿司を頂きました。昨日今日とお見舞御菓子ラッシュです。ごちそうさま。さて、よそ様のお話しの立ち聞きなど、みっともない事なのですが、こう暇だと、いやが応でも聞こえてしまいます。何時の間にやらデビルイヤーになっている自分に気づき、あな恐ろしや。可哀想なWN君は、出て来る飯の殆どが嫌いな物なので、ろくに食べられないそうです。道理でハンバーガとか焼肉弁当の差入れを食べている訳です。
 
  僕達は「好き嫌い云わず何でも食べろ」と言われて育ったけれど、そういう大人が結構偏食で、好き嫌いしたり、食べ残したりするのを知っている。僕等の下の世代は、「無理矢理食べさせるのも、考え物だ」と言われ始めてからの成長だけどやっぱり偏食か。要するに飽食ニッポン健在なわけだ。肉が嫌い、かしわが嫌い、葱が嫌い、人参嫌い、ピーマン嫌い、煮物嫌い、炒め物嫌い、焼物嫌い。あんまり美味くないにしても、腹が減ってても箸も付けずに残してしまうというのは大した物ではある。
 
3/1(月)

  KZさんにあられを頂いた。KIさんにはパイナップルケーキを頂いた。皆さん御菓子の方は偏食無しのようである。やはり、贈られてうれしい餅吉か。毎日熱が37度前後ある。どうしたわけだ。傷の方は痛むようなそうでもないような。今朝は採血されて、目が覚めた。どうしたわけだろう。今日誰か手術があったけれど。手術の所為か、今日の回診は18:00頃らしい。向かいで、全身麻酔の諸注意をなさっていたが、全身麻酔の好きな病院である。少し反省、たった2例で何を言う。

3/2(火)

  昨日、リハビリの兄さんがきて、次のような冊子を置いていった。

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臥床期間が長くなることで、必然的に、腰背筋や、腹筋、及び他の筋力の低下をきたします。したがって、足腰の筋力を強くしたり、縮んだ筋肉を伸ばしたりする必要があります。
また、ギプス等による固定は、腿の筋力がおち間接も固くなってしまいます。しかし機能訓練により、これらの障害を、最小限にとどめることができます。
あなたの努力が早く治します。
この計画表に基づいて、訓練に励んで下さい。

実施に当たって
(1)1日3回に分けて根気よく。
(2)一つの項目を回数に近ずく様に頑張る。
(3)1日1日が大切です。続けないと効果が上がりません。
(4)順序はこだわらなくてもよい。
(5)年齢、体力に応じて加減し、心地よい疲労を残す程度に。

<退院時は詰所にお返し下さい。>
 (1)腓腹筋、ヒラメ筋の訓練 足趾を上にあげたり下におしつけたりする。 (2)膝の筋萎縮を防ぐ訓練 両足を伸ばしたまま、膝に力を入れる。 (3)大腿四頭筋の訓練 片足ずつ15°5秒間空間に保持。 (4)腹筋の訓練 上記の姿勢のまま腰を押しつける。 (腹筋に力を入れ10秒間保持) 1日3回(10時、15時、19時) 健足30回患足10回以上

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というわけで、やってみると日頃の不摂生が効いて、なかなかキツイ。
これなら寝たまま出来るし、普段からやるとよいかも知れぬ。て、きっとやらぬに違いない。
 
3/3(水)

  抜糸は、お預けとなった。今後の予定については、明日聞いてみよう。
昼飯のおまけに雛あられが付いて来た。桃の節句か。この土地では、梅も、桃も、桜もみんなゴールデンウィークだ。北海道の子に俳句と季語を教えるのは、厄介かつナンセンスじゃないか。それとも、本土の旧暦の季節感を異文化として学ぶということか。そもそも「国語」は日本語、日本文学のごくごく一部に過ぎぬし、暮らしになど初めから根付いてないから、まあいいのか。
  いへのつくりやうは、夏を旨とすべし。さむきときは如何なる処にも住まる。なんて云われてもね。
  思えば、京都の旧正月は確かに初春のお慶びだった。

3/4(木)

  木曜日はシーツ交換日なので、ロビーに退去する。将棋盤があったので、HTさんにお相手願う。私と同レベルの下手さだったので、丁度よい暇潰しになった。オーディエンスが大勢集まり、HTさんはその後2番する羽目になった。可哀想に3連敗である、負けん気の強い人だけになお。
  午後の回診の時に抜糸をした。脚のギプスもどき(ニーブレスというそうだ。)も取った。脚が軽い、でも歩くとすごく頼りない。もう、お風呂も入って良いそうだ。このまま、問題無ければ、3/8に退院とのこと。
 

3/5(金)

  今日はパジャマ替えの日である。風呂の日でもある。2週間ぶりの風呂はものすごく嬉しい。少し広めの風呂である。介護の都合を考えれば当然か。
  ガーゼを取って気がついた。患部の周りがしびれている。回診の際アピールすると、、医師は、「目に見えない細かい神経もあるからね」と言う。よく、解らない返事だが、まあ放っておけということと解することにする。
  「退院される方へ」という紙片を頂戴する。

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退院おめでとうございます。
この用紙は退院後の生活において、大切なことですので十分にお読みになり理解された上日常生活に取入れ、いつも気を付けるよう心がけてください。

        次回受診日  月  日 午前・午後

○膝に負担がかかるような動作、例えば、跳んだり、長時間の正座(etc)は、避けるようにして下さい。
○激しい運動も最初は控えた方が望ましいです。
○患部がいつもと違う痛み、腫れ、熱をもってきたら、早めに受診して下さい。

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  請求書も来た。これは2/20〜2/28の分で112710円である。主な処は、手術料41286円、入院料36717円、理学療法その他13770円、である。この理学療法というのは、例の紙切れ1枚のあれか? 月曜の退院時に全部まとめて支払おうと思うので概算してもらったが、5万円くらいだろうとのこと。合計16、7万円くらいか。仕方あるまいが痛い出費ではある。

  夕方、看護婦が来て、もう8日も大便がないが、どうするか。下剤にするか、浣腸にするかと聞く。検温の際に、一日の小便、大便回数を申告するのだが、私も忘れっぽいので記録をとってある。最終は3/1である。なんか間違えたらしい。看護婦が責任追求されても可哀想だから、ここは私の申告ミスだったことにしておこう。とはいえ、それにしても4日である。ここへきてから、一日一回快便の私がどうしたことだ。

  明日から退院の準備をすることにしよう。

3/6(土)

  会計で、理学療法その他のなかみは、暖房費90円/日+手術後管理料1500円/日とのこと。65000円を越える分は高額医療にあたるので、区役所で手続きすれば、なんぼか戻るという。間の悪い事に、2月11万、3月5万となるので該当金額は4万5千円程だ。

3/7(日)

   嫁様に来ていただき、荷物のあらかたを持って帰ってもらう。有り難いものはやっぱり家族か。これで、あしたは鞄一つで帰れるというものだ。帰りには区役所に寄って高額医療の申請をし、税務署に寄って確定申告をすることにする。
  WT君が可哀想だから、みんなで出前をとろうという、良く解らない話になった。
が、喫煙室でそういう話になったため私は知らなかった。まあいい、晩飯を食った上に出前を食うのは私には無理だ。カツ丼をとったり、ラ−メンをとったりしているが、なんか病院の御飯の方がうまそう。でも、退院したら、こころゆくまで麦飯を食うことにしよう。病院では白米ばかりだ。

3/8(月)

 万事問題なく退院の運びとなったが、大雪である。なんで?


 
 
 
 
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