autobiography #7 誰にもできなかったはなし(ポエムのお部屋)

山椒太夫は悲しんだ。
安寿と厨子王にしたイジワルのタタリで、頭が肥大した彼は
邸宅としていた岩穴から外に出ることができなくなってしまったのだ。

  土用の丑の日くるたびに、うなぎコーナーできるたび、わたしの頭に去来する
山椒太夫の悲しげなまなざし。

  暖簾くぐって、小粒でもピリリと辛いソレに手を伸ばす、わたしの頭に去来する
山椒太夫の悲しげなまなざし。

  やつはじっとしている。微動だにしない。魚という名を 持ちつつも、怪獣ちっくなその風貌。

  昔話と井伏鱒二との間に何のかかわりもないと 気づいたいまでさえ、わたしの頭に去来する
山椒太夫の悲しげなまなざし。
 

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2001/07/19