autobiography # 025 400番台の伝説。

  1970年代の初頭に仮面ライダースナックというスナック菓子があった。オマケに仮面ライダーカードという特撮番組仮面ライダーのシーンを表示した幅5cm長さ7cmほどのカードがついてくる。この仮面ライダースナック、発売元はカルビーであったと記憶している。かっぱえびせん、サッポロポテト、同バーベキュー味、ポテトチップスとおしもおされもせぬスナック界の重鎮である。まじめにつくればそれなりにウマイものが作れそうなものだが、実にマズイのである。天ぷらのあげかすに大量の塩・砂糖をまぶしたがごときシロモノなのである。しかし、仮面ライダーカードのほうは好評で、かくて、おまけのカードほしさに仮面ライダースナックを購入し、カードだけを抜き取り、スナックのほうは未開封のまま投棄する子どもが続出、まさに「食べ物を粗末にする行為である」ということで社会問題と化していた。

  ところがどういうわけか、わが郷里、和歌山市ではこの仮面ライダーカードがカードのみで駄菓子屋にて販売されていた。それは緑色のハトロン紙に包まれて冊子の形状をしており、駄菓子屋のババアが開いたなかから一枚引くのである。このカードのなかには当りカードというのがあってこれをカルビーに送ればアルバムがもらえるハズなのだが、駄菓子屋のババアに見せるとカードにマジックで×点をいれられたのちもう一枚カードを貰えることになっていた。アルバムよりはカードそのもののほうが魅力的だったものだから知り合いには当りカードをカルビーに送ったものはいなかった。

  仮面ライダーのスポンサーでもあったカルビーとしては、これはとても承服できないはなしである。あのマズイ仮面ライダースナックがとにもかくにも売れているのは一にも二にもカードの功績である。それがカードのみでカルビー製品とは無関係に販売されているとなれば、何のためにテレビ番組のスポンサーをやっているかわけがわからない。駄菓子屋で販売されるカードそのものは本物であるから、どこかの時点で駄菓子屋に対する横流しがあったのだろうと想像されるが詳細は不明である。

  ところでこのカード、わが郷里ではただ眺めて楽しむというわけではなくゲームに使用されていた。これは単に「券」とのみ呼ばれており、ルールはいわゆる「めんこ」に似ているが詳細に違いがある。まず、地面ではなく、公園のベンチ、学校の机といった台上で競技が行なわれる。じゃんけんによる順番で自らのカードを台上に叩きつけるわけだが、風圧によって他のプレイヤーのカードを裏返せばそのカードは頂戴できることになっている。しかし、他のプレイヤーのカードに当ててはじきとばし、これを台上から外へ出しても頂戴できる。他のプレイヤーのカードの下にもぐりこんだ場合も他者のカードに触れずにこれを持ちあげることが可能であれば頂戴できる。さらに誰かのカードを頂戴した場合はつづけてもう一度プレイできるのである。

  自分のカードを台上から外に出してしまった場合は落とした他者のカードも裏返した分もパーである。かつ台の端に自分のカードを置かねばならない。かなりの確率で次回の自分の番までにだれかの獲物となる運命にある。さて、主要な決まり手は二番目の弾き飛ばしでそのため少年たちは自分のカードを改造する。おおむね、左右上端の角を折り上げ、上端中央部はやや下に角度をつける。なるべく確実に他人のカードに当たるようにし、効率よく運動エネルギーを敵カードに伝達する。完全弾性衝突となり、自カードはそこにストップ、目標カードのみ弾きとばされるのが理想である。

  このとき少年達の間にはまことしやかに語られる伝説があった。仮面ライダーカードの裏面には番号がふられているのだが、このうち400番台の数字が打たれたものは製造工場が変更になっており格別に重く、厚くなっているというのである。しかし、500番以降はもとの工場に戻ったので普通なのである。よって、この400番台のカードを使えば敵には落されにくく、かつ敵のカードを撥ね飛ばす威力は抜群。おそらく向かうところ敵無しなのである。しかし、羨望の400番台であるから、迂闊に使用するとみんなの集中攻撃を浴びてしまう。誰もかれもが欲しがる400番台なのであった。ただし絵柄としてはひたすら凡庸で、どうということはない復活一号ライダーとゲルショッカー怪人の戦闘シーンである。そんなわけで勿体なくて実戦に使用されることはめったになくその強靭な戦闘能力が証明される機会はないのであった。

  ある日のことである。駄菓子屋でライダーカードを買うと幻の400番台である。人にそうとバレぬように家に帰り、ちょっと持ち比べてみた。よくわからない。が、なんとなく重いような気もする。目をつぶって比べてみる。よくわからない。机の上に置いてみる。端っこに置いて別のカードを当ててみる。あっさり飛んだ。しかし、なんとなく飛びかたが小さいような気もする。渾身の気迫で折り目をつけ攻撃に使用してみる。バシンとものすごい音がして、ちょっと凄い風圧を出したような気もする。単にプレイヤーのほうの気合いが違ったのかもしれない。しかし、これこそはユメの400番台である。まさしくお宝である。友達のカードをバッタバッタと落としまくる姿が彷彿される。しかし、万一敗れることがあれば、貴重品とはオサラバである。

  結局宝の400番台は実戦に供されることはなかった。

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2003/1/3