ADSLを使ってインターネットに常時接続するようになって半年あまりである。それでなにが変化したのか、といえば自分の書く電子メイルの誤字や脱字が増えたことと、論理不整合が多くなったことである。メイルを書いてから出すまでの時間が短くなった。95,6年にブームに乗せられて、インターネットに接続しはじめたころはプロバイダは固定料金でも電話代は時間に比例してかかるので、ある程度キューに貯めておいて、接続したときに一気に掃きだしていたものである。といってメイルをやりとりする相手そのものがほとんどなかったが。それはさておき、23:00以降のテレホーダイ時間になると電話回線が混んでくるので、アクセスポイントにつながりにくいし、つながったとてネットワークの反応が遅かった。そこで夜は避け、午前中のすいた時間をみはからって繋ぐのである。そんなわけで書いてから出すまでに時間があり、出すまえには読みなおすので修正したり、ボツにしたりすることになる。
やがて、ISDNがはやるようになると、スピード重視の人々はそちらに移動してしまい、逆にアナログモデム接続はテレホーダイ時間でも空いてきて、23:00から0:30のスイートタイムさえ避ければそれなりにつながるようになった。おもむろにテレホーダイに加入した。空いているのは2:00から5:00ごろ時間だが、よいこのわたしにはおねむの時間である。そこで、その時間帯に自動的にキューに貯めたメイルを出し、私宛てのメイルをとりいれ、ニュースグループの記事をとりこみ、ふだんよくみるウェブサイトはコピーする、という仕掛をつくった。あらたに見たくなったサイトはコピー翌日のコピーメニューにくわえておく。コンピューターというやつはこの手の自動実行は得意だからツールは簡単に(といってもfj.os.linuxのお世話になったが)セットできた。
こうなるとメイルのポスト前のチェックはされなくなり、その晩の自動実行までに修正したくなったものだけが推敲ないし、ボツになるわけである。それでもまだ、書きあがってからしばらくたって読みなおしたりするわけである。
これがADSLになってからというものキューにいれてから、キューの中身を確認して、そのときただ一度だけ読みなおして直ちにポストである。誤字脱字や迂闊な内容、吟味されない思い付きの類がダダモレである。出してしまってから後悔の臍を噛むこと夥しいが、だからといって一日冷却期間をおくこともなく急いで書いて急いで出してしまう。何をそんなに急いでいるのだろう。
同様にウカツな書きこみをしてしまうのがBBS、掲示板というやつである。わたしのかな漢字変換システムはエディタ上で使うほうが辞書ひきやウェブページの参照に具合がいいのでエディタで適当なファイルに書いたのちコピー&ペーストというやつで掲示板に書きこむのだが、以前ならば、書きこむのは書きあげてから数時間か一日経ってインターネット接続時である。だから冷却期間があって、読み直しができ、推敲ができ、誤字脱字も減少し、内容も少しは吟味されたものとなった。が、常時接続になってからは、書きあげてすぐに書きこんでしまいアトで迂闊なものいいをと後悔することになる。そのかわり軽口な書きこみは10倍くらいに増加した。
これが郵便局経由の手紙やビラやその他の原稿ならば、もっと吟味もしようし、下調べもしようし、書くときも中断もいれてああでもないこうでもないと呻吟して熟考しようものが、インターネットとなるとなんだかお手軽、デタラメ、論拠薄弱になってしまうのである。インターネットであっても別に締切をせっつかれるワケじゃなし、わたしがその気になりさえすれば、思いつきは手元のファイルに貯めておき、メイルや書き込みはその一日後ないしは一週間後としてその間検討できるはずなのであるが、なぜか拙速になってしまう。そのくせダラダラパソコンに向かう時間ばかりは増えているのである。
ところが、自分のダメさを他人もやっぱりダメだからまあいいや、と思うのは正しい日本人の道である。他人がダメだからといって自身のダメさが免罪されるわけではないのは百も承知でも、なんだか安心してしまうのである。よって、いかにも推敲も調査もしてないな、という記事をみつけては密かに安心したりしているのだが、これが結構あちこちに散見されるのである。いまでは自己責任をすっかり放棄し、その論理的可能性にもかかわらず、インターネットには人にゆっくり下調べをしたり熟考したりさせない何かがあるのではないかと疑っている。やっぱりあれですか、CPUやメインクロックやADSLモデムから漏れだしてくる悪い電波じゃなかろうか。うちにはないが無線LANからも悪い電波がでてそうである。かつてテレビの普及で日本中がテレビの電波まみれになったおりは「一億総白痴化」とかいうはなしもあったような気がする。郵便ポストが赤いのもそれの設置者が某首相に攻撃されるのもみんな電波のせいにちがいない。
2002/7/5