ayya #18 自覚

  3月である。札幌も3月で暖い日がつづくと道路の雪も解けている。近所のスーパーへのお買物の足取りも軽い。が、その帰り道。歩道を帰途についていると向い側から勢いよく車が走ってくる。車道はここらへんでは路肩が中途半端に広く2車線だか1車線だかよくわからない。実は自転車道のマークがついてたりするがどういうわけか、ここらへんの自動車は自転車道や路肩を走るのが大好きであったりする。雪の多いときはきっぱり1車線だが、いまはその雪が解けて、湿地帯と化している。

  「よせ、くるんじゃない」「せめて、その1/2の速度で走れんか」そんな私の祈が届こうはずもない。しかたがないので、歩道内で精一杯よけるが…。

  黒いミゾレが周囲5mにわたって降り注いだのはその次の瞬間であった。惨状を残して奴は去った。深い悲しみ。湧きあがる怒り。怒り。怒り。怒り。しまった、ナンバープレートを覚えておくのであった。そうしてポリスにタレこみ、断固たるクリーニング代金の請求と謝罪要求を。「ええい出るトコ、出たろやんけ」。しかし、いかんせんナンバーはおろか車種すらわからない。悔しい。悔しい。悔しい。悔しい。キーッ。

  そのときである。マリア様があらわれて知恵ある言葉をささやいた。

  「オヤジはイカる。」

  おやぢは怒る。つまらんことでいちいち怒る。怒ってもしょうのないときにも、自業自得のときにも、どういう反応をしていいか判らないときにも。正しく怒り、正しく解決に向うわけでなく。怒っても大丈夫そうな相手にはとくに激しくイカる。

  私がまだしょっちゅうパチンコを打ってた頃、ホールには必ずやおよそ勝ち目の無さそうな台にさんざつぎこんで、当然の如く吸いこまれて怒り狂うオヤジがいたものである。そんな悔しいならマジメに研究すれば勝率はそれなりにあがるでしょうに。とりあえずいくら使って、チャッカに何発いれて、何回スロットを回したのか把握すればいいものを。と思いつつ、パチンコ台に怒りの鉄拳を加えつづけるオヤジを冷ややかに見ていたものである。ま、そういうオヤジが貢いでくれればこそホールも経営が成りたち、私も適当に遊ばせてもらえるってものである。「ま、壊さない程度に怒っててね。」

  しかし、問題はあるのだった。私がハネモノで遊んでいると、裏側で怒れるオヤジがガンガンやっているのである。周期的にやっているのである。しかもナゼかこっちがVゾーンにタマを載っけてシメシメと思ってるときに限って、裏側で勢いよく台に制裁を加え、必ずやVゾーンに載っかったタマを落としてしまうのである。悲しい。

  そんなオヤジの仲間入りをしてしまったのかしらん。なんだか悲しい。

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  子供の頃である。友達のうちにいったら、玄関がある。テレビでしか見たことのない玄関というものがある。二階がある。そいつは自分の部屋というものを持っている。はじめて自分の家が金持ちではないらしいことを知った。

  母に聞いてみた。

  「どうしてぼくは銀の匙を喰わえて、生まれてこなかったの?」
母がいうには何か匙らしきものを喰わえていたそうである。ただし、生まれてすぐに沼に落してしまったんだそうである。沼からは女神さまが現れて
「おまえの匙はこの金の匙かい? それともこの銀の匙かい?」
と聞いたんだそうである。そのときは私は即座に「両方!」といったものだから女神さまは「嘘つき!」とつぶやいて消えてしまったそうである。悲しい。

  さらに母は自分はほんとうは山猫なのだが、父に生命を救われた恩返しにヨメはんをやっている。が、やがて山に帰らねばならぬ、と続けた。

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