PC-Blues #6 愛と郷愁とLINUXと

  96年もなかば、win95が本邦でも普及してきたころ、わたしはSlackwareのインストールをしていた。この頃、すっかり足が近付いてしまった書店のパソコンコーナーで、『Walking Linux』なる本を衝動買いしてしまったのである。じつは、これ以前にも、『お気楽極楽インストール』なる本を買っていたのだが、私のノートマシンには無理そうだったので。

  UNIXという言葉には淡い慕情と甘酸っぱい郷愁がある。私の出身の某大学は、関西ではUNIXの牙城であるが如く、Internet上にanonymousftpだの、archieだの早くから公開しているくせに、学生である私は、大学で一度もコンピュータに触った事が無い。文学部に入った所為だろうか。わたしのいった研究室の電気製品は電灯と湯沸し器しか思い出せない。

  そんな私にとってコンピュータというのは、砂の嵐でバベルの塔を守っている、あれだ。何千年使い続けても、1度の一般保護エラーも出さないスグレモノだ。さもなければ、チカチカひかるランプと断続的に回るオープンリールテープデッキの前で吐き出されるパンチ穴のいっぱいついた紙テープを、白髪の博士がみて、青ざめる、あれだ。

  こんな、どこまでが建物でどこまでが機械だか解らない化け物を、ダウンサイジングのかけ声も高らか、粉砕一掃、CRTの前のにやけたニキビ面メガネ兄さん、良く解らない呪文をコマンドシェルに打ち込めば、全世界のあらゆる電気製品が、およそ物理層のつながってなさそうな物まで一斉に暴走をはじめてしまう。これがUNIXだ。なんか根本的に勘違いしているような気もするが。

  そのUNIX(clone)が我が家に来るというのだ。これで、世界も我が手に入ろうというものである。

  しかし、期待に反してインストールはあっさり済んだ。

Welcome to Linux 1.2.xx
darkstar login : _

  ようし、rootでloginだ。いきなり、super user様だ。みんな私のいいなりだ。

darkstar:~#_

  しまった。UNIXコマンドを知らない。

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