ウトロは知床半島の北側のつけねにあたる港町で、また観光街である。知床半島には車両規制があり、自家用車は知床五湖までである。ウトロからは海路知床観光をするべく、観光フェリーや観光クルーザーがでている。そのフェリーからみると、ここは火山の連なった半島で、沿岸は断崖となっていて、さらに奇岩がごろごろしている。距離があるのでそう大きくは見えないが実際10数mあるという。大きな鴎と海猫がフェリーに並走して飛び、旅行者から今日の喰い扶持を稼いでいる。近年のアウトドアブームであちこちにテントがたっている。知床半島の北端は知床岬で、ここばかりは平坦な台地になっていて、お花畑がある。そしてここにもキャンパーのテント。
下船して、羅臼にゆく。道の途中に熊の湯という温泉が湧いており、その向い側にあるキャンプ場に泊まる。昔は「なんだかな」と思った施設だが、「環境へのダメージをせめてもの段階でとどめる働きがあるのだ」といまでは思う。ここで同行のMさんが腰に何かついているという。見てみるとそれは体長8mmほどの蜘蛛で、こちらの体内に頭を埋めて、胴だけが倒立している。引っぱると固い。もっと引っぱると頭がとれて埋まってしまった。後で外科にいって、手術で切り開いて取ってもらうことになった。傷口は1針である。医者によるとこれはダニでもっと大きいのもよくあるそうだ。真っ直に引っぱるとこんなふうに頭がとれて厄介なので、回しながらはずすのが正しいそうだ。しかし、あれは熊の湯で茹で上げられて既に絶命していたようであった。
翌日。羅臼へでる。ここは漁港だが、今日は盆休み。漁港には人気のない、そのくせ提灯をいっぱいぶらさげた漁船が停泊している。昼飯にしたかったが適当な店もなく、漁協の観光みやげもの屋で弁当を買って喰う。秋刀魚はまだこれからでホッケはもうおわり。イカもおわっているらしい。端境期という奴である。だから休みなのか。秋刀魚の刺身は北海道で暮らすようになって初めて食った。北海道では、秋刀魚、鰯あたりは回転寿司でもうまい。そのかわり、中華やラーメンは壊滅的にだめである。というのは勿論私見。とはいうものの今回の収穫は納豆昆布と海苔佃煮で、こいつはウトロに戻って買った。
ウトロに戻って、車で知床五湖に向う。途中、知床五峰がダークダックスのようにならんでいて、道の両側には原野が広がっている。ここは以前入植して酪農村を作ろうとして失敗した残骸とのこと。北海道にはこの手の原野、草原が至るところにあり、見渡すかぎりの広い地平線をつくっている。江戸中期までは全土が深い森林に覆われていたが、江戸時代、あちこちの海岸の「場所」で燃料としてあたりの森林を根こそぎ伐裁してしまい、明治以降に内部も開拓と称して森を切り開いてしまったため景観が一変してしまったということである。その意味では日本一自然破壊のすすんでいる地域である。知床五湖は一回り5kmほどの遊歩道のついた公園になっていて、京都や金沢の庭園にも劣らぬ絶景のオンパレードである。近景に湖、それをつつむ林、遠景の連山が湖面に写る。林の中の木は一列に並んでいる。これは植林のためではなく、日照が不足するため幼木が林の中で成育できず、倒木があるとそれにそって成長するためだとのこと。かくて母木の倒れたあとに一列に若木が成長している。