岩波新書『子どもの歌を語る -- 唱歌と童謡 -- 』によると文部省『尋常小学唱歌』所収の「村の鍛冶屋」には三番があり、次のようであるそうだ。
刀はうたねど、大鎌小鎌
馬鍬(まぐわ)に作鍬(さくぐわ)、鋤(すき)よ鉈(なた)よ
平和のうち物 休まずうちて
日毎にたたかう 懶惰(らんだ)の敵と。
刀や武器はうたずに、農具、大工道具などの平和の打ち物だけを打つ村の鍛冶屋の歌であり、鍛冶屋はそのことを誇りとしているという図式である。これが第二次世界大戦のおりに三番が省かれた。戦時下のノリとしてはさもありなんといったところだがこの三番は戦後も復活することなく、二番の
あるじは名高き いっこく老爺(おやじ)
が 「いっこくものよ」を経て「働き者よ」に改められたそうである。私が習ったのは最後のものであった。がやっぱりそういう職人さんはガンコおやじのほうが雰囲気も出るというものではある。地侍かなんかが追い返されるってのが期待のパターンである。
また1910年以来ずっと唱歌教科書にあった「われは海の子」の七番は
いで大船を乗出して
我は拾わん海の富。
いで軍艦に乗組みて
我は護らん海の国
であり、戦時下の1940年代の「ウミ」の
ウミニ オフネヲ ウカバセテ
イッテ ミタイナ ヨソノクニ
とは好対照をなしている。「ウミ」の3-4-5 3-4-5 のリズムはものすごく気持よいのだが。この時期には「オウマ」「チューリップ」といった名曲が出ている。高学年が軍歌やその手の歌一辺倒になっているころ低学年用の歌にかける人々がいたらしい。
さてさまざまの名曲を含む文部省唱歌だがその一号は「みわたせば」である。 これはなんと「むすんでひらいて」のメロディーである。
見わたせば、あおやなぎ
花桜、こきまぜて、
みやこには、みちもせに
春の錦をぞ。
さおひめの、おりなして、
ふるあめに、そめにける。
見わたせば、やまべには、
おのえにも、ふもとにも、
うすきこき、もみじ葉の
あきの錦をぞ。
たつたひめ、おりかけて、
つゆ霜に、さらしける。
やはり歌は花鳥風月である。ところがこの歌、後には軍歌になってしまうのだった。
見渡せば、寄せて来る、敵の大軍、面白や。
スハヤ戦闘(たたかい)始まるぞ。イデヤ人々攻め崩せ。
弾丸込めて撃ち倒せ。敵の大軍撃ち崩せ。
見渡せば、崩れ懸る、敵の大軍心地よや。
モハヤ戦闘(たたかい)勝なるぞ。イデヤ人々追い崩せ。
銃剣附けて突き倒せ。敵の大軍突き崩せ。
メロディーを追加。ただしmp3です。
2001/07/08